多くの国において人口の分布は似た曲線をたどると言われている。つまり、初期には出生数も死亡数も非常に多い状態。出生数はそのままに死亡数が減少することにより人口が急激に増加する中期。そして、死亡数は減少し続けるとともに出生数が頭打ちになり人口が増えていかない(横ばい)の状態の後期の主に3段階があると言われている。
この傾向はアメリカやヨーロッパでは既に起きていることであり、人口が横ばいの状態が続いているところが多い。もちろん、移民などを受け入れることで改善を図ろうとしているものの、中期の急激な人口の増加という状態ではないことは確かである。そして、この傾向は日本においても同じである。皆さんご存知の通り、日本の出生率は1%台であり欧米と同じような状態になっている。また、いまだ人口が増加し続けている中国・インドにおいても遅かれ早かれ同じような状態になると言われている。
それにしても、なぜ、どの国においても、そのような傾向を示すのであろうか?一説には、人口増加を抑制する力を自然環境が持っているからと言われている。どういうことかと言うと、人口が急激に増加するとそのスピードに合わせて農耕地を拡大する必要性が出てくるが、その人口増加のスピードに農耕地の拡大のスピードが追い付かないのが分かりやすい例だ。他にも、環境問題がある。中世のヨーロッパにおいては、人口増加に対応するために森林伐採が行われた結果、多くの資源を失うことになった。日本においても、水俣病などの問題やお金を得たところで幸せになれなかったという広く共有された事実によって、日本国民の生産に対する抑制力が働いたことは言うまでもないだろう。
さらに言えば、現代の若者を代表とする意識はまさに抑制そのものでもある。高度経済成長期を生きてきた人間からすれば成長は善であるが、現代の若年層からすれば必ずしも成長は善ではない。それよりも自分に適したものを求め、自身の身の丈にあった生活を求めるようになった。それら意識の変化はまさに経済活動を抑制する一つの要因となっているはずだ。同様に、ヨーロッパにおいても無理に労働することへの嫌悪感が強いことも経済活動を抑制する要因になっている点においては日本と非常に似ている。
話は変わるが、製品ライフサイクル理論をご存知だろうか?このブログを読んでいる人であれば、ほとんどの人が知っていることだと思うが、製品ライフサイクルとは、製品が市場に登場してから衰退するまでの間に、1:導入期→2:成長期→3:成熟期→4:衰退期のステップを踏むことを示した理論である。
この曲線は、前述した人口統計の曲線と非常に似たものである。導入期の製品利用者の数と利用しなくなる数が同数のような状態から、利用しなくなる数が急激に減少することで製品利用者が急増する。そして、一定の数量になると利用者数が頭打ち、横ばいになり衰退期を迎えるというサイクルである。
何が言いたいのかというと、人口推移数を製品利用者数に置き換えることで製品ライフサイクルにおける成熟期がなぜ起きるのか?という原因を見極めるヒントになるのではないか?ということである。人口の場合には、人口が急増すると自然環境の変化をきっかけとして人間の意識の変化を引き起こしたことで人口が横ばいになったと考えられる。同様に、製品ライフサイクルにおいても成長を抑制するきっかけや利用者の意識の変化があるのではないのか?ということである。もちろん、製品によってはほとんどの消費者に行き渡ることもあるが、今回言いたいのは抑制の要因の発見である。
では、早速本題である。人口の増加を抑制した要因は、自然環境の制約や価値観の変化であると考えることが出来る。つまりは、人口が増えるためには食料や木材や燃料など様々なものが必要であると同時に、それを善とする価値観・意識が必要だということだ。その2つの要素が両輪となって人口増加を支えていたと考えることが出来る。そのため、そのバランスが崩れれば人口増加は抑制されることになる。
そのように考えると製品ライフサイクルにおいて、成長するための必要な要素は何があるのだろうか?これは製品や環境によって全く異なることが考えられる。例えば、テレビが買われなくなった原因はネットの出現による価値観の変化にほからなない。これまでであれば、経済ニュースからバラエティまで多くの情報はテレビから得ていたものが、ネットが出現したことでテレビの必要性が薄れてきたことにある。他の媒体が出現したことでテレビの欠点が浮き彫りになり、テレビ一辺倒の価値観が変化したからである。これまで多くの人が信じてきたテレビへの価値観や意識が変化したことでテレビ購入数が減少に転じたと言えるのではないだろうか?
製品サービスが衰退する時というのは「価値観の変化」に大きな要因があると考えることが出来る。人口の減少についても、それまで信じていた価値観が変化することによって起こっているし、製品サービスの衰退についても同様に価値観の変化が要因である。この世界を作り出しているのは、人口数も製品の衰退も我々の「意識・価値観」にかかっていると考えることが出来る。
マーケティング担当者としては、今人々はどんな価値観を持っているのか?何を信じているのか?を十分に知っておく必要がある。その意識によって御社の製品サービスが売れるのか売れないのかが決まるからだ。人口の数でさえ左右する人々の意識を知らずして製品サービスを売るなんてことは不可能であることを十分に知っておく必要がある。