「ヒカルと宮迫」のロコンドCM
ヒカルというYoutuberとお笑い芸人の宮迫が出演しているロコンドのCMをご存知だろうか?このCM実は地上波ではまだ2回しか放映されていない珍しいCMである。なぜそんなCMについて書こうとしているのかというと、このCMが放映されるまでのストーリーが非常に素晴らしいいわゆる優れたストーリーマーケティングだからである。今回は、このCMが出来上がるまでの経緯を辿ることでストーリーマーケティングとは何か?ということについて考えてみたいと思う。
靴を売るための戦略
ヒカルというYoutuberは、登録数400万人を超える超人気Youtuberであるが、このヒカルが最近お笑い芸人の宮迫博之と度々コラボしている。というのも、宮迫博之が闇営業事件後の復帰の場所としてYoutubeを選び、その手助けをヒカルがやっているからである。実際、宮迫博之の2本目の動画にはヒカルが登場し闇営業の事件をいじりまくるシーンが度々あり、宮迫博之のチャンネルを盛り上げていた。
そんなヒカルであるが、ビジネスマンとしての側面もある。自身のアパレルブランド(ReZARD)を持ちYoutubeで動画をアップするだけではなくYoutubeで得た知名度を有効活用している点は他の一般的なYoutuberとは違うところだ。今回ヒカルは、自身のアパレルブランドの靴を作りたいと考えロコンドに声をかけたそうだ。しかし、単純に依頼するだけじゃないのがヒカルらしい。靴をロコンドのサイトで売るために、もし十分な売上を達成したらCMに出演させて欲しいと依頼したのだ。ヒカルは動画の中で、自分自身の夢の1つとしてCMに出演することであると語った。
ここがまず最初のポイントであったと私は思っている。ヒカルのファンに「買ってあげたい」「ヒカルの夢を叶えてあげたい」と思わせたからである。もし、単純にロコンドのサイトで自身のブランドの靴が買えますよ~的な宣伝をしていたら、この後達成される売上は絶対に不可能であったからだ。こういうところがヒカルがビジネスマンとして、そしてマーケティングの能力に秀でているところだと感じる。ヒカルは、靴の良さについてはある程度語りつつも、メインは自分自身の夢のためにやっていることを強調していた。そこがまずはポイントであると感じた。ヒカルの夢に視聴者が巻き込まれた瞬間である。
しかし、それだけではない。ここで宮迫博之の登場である。ヒカルは宮迫博之には内緒でロコンドに呼び、もし売上目標が達成されたら宮迫博之と一緒にCMに出させて欲しいとお願いしたのである。宮迫博之のテレビに戻りたいという気持ちを叶えるために靴を買って欲しいということである。ここでも宮迫博之のファンを上手く巻き込んで靴の売上を増加させるためのポイントである。
サーバーダウンと放送局からの放映拒否
さて、これら戦略のもと売上はどうなったのかと言えば、実に2億円を売り上げるという大成功を収めたのである。しかも、動画がアップされて1時間も経過しないうちにロコンドのサーバーがダウンしてしまうほどの人気ぶりであった。ロコンド社長の田中氏は、これまで何度もテレビCMを打ってきた経験からしてもサーバーがダウンするなんてことはまったく想定していなかったと語っている。それだけ、ネットのYoutubeの力を思い知った出来事であったようだ。
これだけの人気ぶりに実際に靴を買った人も非常に喜んだろう。また、実際に靴を購入していない人でもヒカルや宮迫博之、ロコンド田中社長の嬉しい笑顔やはしゃぐ姿に気持ちよくなったはずだ。そういうシーンを見せることが出来るのがYoutubeのよいところである。そして、これだけ売れたのだからCMを作って欲しいという気持ちもファンの中では高まったはずだ。そして、次の動画ではロコンド田中社長がCMを作ると宣言するのであるが、ファンからすればまた楽しみが増えた気持ちだっただろう。
しかし、意外にもそんな上手くはいかなかった。雲行きが怪しくなってくるのである。ロコンド田中社長が自身のYoutubeチャンネルで語ったところによると各放送局にCMの放映をお願いするものの、ほとんどの放送局からCMの放映を拒否されたそうなのである。主な理由は、宮迫博之の闇営業に対するイメージがあったようだ。そして、この出来事がこれらストーリーに良いスパイスを与えることになる。
ロコンド田中社長は、そのようなことがあっても引き続き交渉を続けていく旨を真剣な顔で語りかけた。そして、いかに放送局が拒否した理由がおかしいのかということについても語った。その動画によって、経緯を知った視聴者やファンからは、頑張って欲しいという気持ちが芽生えたはずだ。中には、困難に挑戦する姿に感動する人もいただろう。ここで悪への戦いを挑むような構図が生まれるのだ。いずれにせよ、多くの人が経緯を見守り気にするようになっていったのである。ある意味、放送局が拒否してくれたおかげでこの企画は更なる成功を獲得したといえるのかもしれない。
そしてCMの放映
しかし、そのように拒否され続ける中でも結局のところテレビ東京だけがCMの放映にOKを出す。そのことをロコンド田中社長は動画で報告し、ヒカルと宮迫博之はテレビ放送中にYoutubeで生放送をしてファンのみんなと一緒にテレビを見て放映されるCMを見るという企画を実践する。実に面白い試みであり、テレビを見ない人でも「見てあげたい」「少しでも貢献したい」「貢献できる」と思わせるものであった。ヒカル・宮迫博之と一緒に感動を共有するという実に素晴らしい体験を提供しているのである。
ストーリーマーケティング
ここまで読んでみて皆さんはどう思うだろうか?私個人としては、ストーリーマーケティングの真髄をリアルに見ることができた貴重な出来事であった。ストーリーマーケティングは、靴の良さや品質の高さ、価格の安さなどをどれだけ上手く伝えるとかそういう次元の話ではない。そうではなく、ヒカルの物語、宮迫博之の物語にみんなを巻き込んで一緒になってストーリーを経験することにこそストーリーマーケティングの真髄があるのだと思うのである。
今回の件で言えば、ヒカルのCMに出るという夢、宮迫博之のテレビに戻るという夢に視聴者は巻き込まれている。そして、視聴者は「靴を買うという行為によってストーリーに参加することが出来る」。靴を買うという行為が自分自身のためだけでなく、一人の人間の夢を叶え、ある人が喜んでもらえるという付加価値になっているのである。もちろん、靴を買わない人であっても、ヒカルと宮迫博之のストーリーを追うことでまるで自分自身が戦っているような気持になる。それがこのストーリーマーケティングの真髄であると私は思うのである。
さらに、テレビ局の放映拒否が典型的な「善と悪」の分かりやすい構図を生み出したことによって、よりこの体験が面白いものになったのである。
ある意味、顧客は「困難への挑戦を購入している」のであり、「挑戦するストーリーの中に自分自身が参加できるという権利にお金を払っている」とも言えるのかもしれない。自分自身が挑戦者になれる非現実的なストーリーである。
これこそ、最先端のマーケティング手法と言っていいのではないだろうか?モノが溢れ、何でも安く購入することが出来るようになった現代において、「お金を払う意味」や「お金を払う喜び」を感じることはない。モノの価値はメーカーの努力とは裏腹にどんどん低くなってきている。しかし、それではビジネスにはなり得ないわけで、事業者は売り方を変えなければならないはずだ。ストーリーマーケティングは、その一つのヒントになると私は今回の件において感じることが出来た素晴らしい体験であった。
今後、このようなマーケティングが出来るようになるかどうかが企業の生き残りに大きな影響を与えるに違いないと感じたのである。
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