すかいらーくのレコメンドメニューを開始すると発表した。
顧客一人ひとりの嗜好に合わせて最適なメニューを提案する「売る力の強化」だ。IT本部を統括する和田千弘取締役は「外食業界で初めて本格的な『One to Oneマーケティング』を実現する」と意気込む。すかいらーくは昨年、クーポンを発行したり新メニューを告知したりするスマホ向けの「マルチブランドアプリ」を導入し、現在1700万人が利用する。同社にとってこれは単なる集客ツールではない。利用者の性別、年代、居住地域などを登録してもらい、いつ店に来たか、どんな注文をしたのかなどの履歴を集めている情報インフラなのだ。IT本部内のデータサイエンティスト達が日々、そのデータ分析を重ねる。(中略)店内の各テーブルに置くタブレット端末「デジタルメニューブック」と連動し、顧客を特定。一人ひとりに「おすすめメニュー」を自動表示するような仕組みを整える。来店時刻や天候・気温、季節、店舗の立地などに応じ、最適の商品を提案。商品を選びやすくするだけでなく、客単価を引き上げる狙いもある。一定の時間が経てば、デザートをおすすめするなどの機能も端末に持たせた。
日経ビジネス2019年2月14日
個人的にはこのシステムによってすかいらーくの価値がどれだけ上がるのかについては甚だ疑問だ。「また来店したい」と思うようになるのだろうか?どんな商品をレコメンドしてくれるのかを楽しみにして再度来店してもらったり、隣のファミレスではなくすかいらーくグループを選んでもらえるのだろうか?
マーケティング的な観点から言えば、少なくともこのシステムを導入することで他のファミレスではなくすかいらーくグループを選んでくれるようにはならない。確かに商品は選びやすくなるのかもしれない。だからと言って、「他のファミレスよりいい!」となるにはあまりにもインパクトが弱すぎる。少なくとも新規顧客がこのシステムで獲得出来るようにはならないだろう。
また、既存顧客(頻度高く来店する人やアプリを導入している人)にしても、天候・気温・季節・立地などに応じてレコメンドしたところで、何度も来店していれば、どんなメニューがあるのかは大体知っているわけで、既存顧客からすれば特に大きな変化とは感じられないだろう。オススメメニューが少し変わったかな?と感じるくらいだ。そのような小さな変化によって「さらに来店意向が高まる」とは考えずらい。そもそも、既に既存顧客になっているお客様はそのようなレコメンドを気に入って何度も来店しているのではない。接客・メニュー・雰囲気・立地などによって既存顧客になっているわけだ。それら既存顧客にレコメンド機能を追加したところでどれだけの売上の貢献になるのだろうか?
もし、取締役が言っているように、客単価を少しでも上げることが目的なのであればその効果は多少あると思う。そもそも、ファミレスのブランドを指名して来店する人はそもそも少なく、選ぶ商品もその時の気分によるところが大きいので、おススメされれば、「それでいいや」となる可能性はあると思う。しかし、それにしてはあまりにも大きな投資ではないだろうか?天候・気温・季節・立地によって商品を提案するにしても別にデータ分析するまでもなく店員ならわかるのではないか?雨の日はどんな商品がよく売れて、気温が低いときはこの商品が売れる、この店舗ではこのような商品が好まれるなどそもそもデータ分析するまでもなく店員にインタビューやアンケートすれば良いのではないだろうか?
いずれにせよ、お客さんからすればレコメンド機能が優秀だからこのファミレスにしよう!とはならない。このシステムはあくまで少しでも売上を伸ばしたい企業側の都合である。顧客視点ではない。
もし、これらシステム導入によってすかいらーくグループを選んでもらう理由を創りたいのであれば、レコメンドではなく、会話のきっかけとなるような話題やテーマの提案などのシステムの方がよっぽどすかいらーくグループを利用する理由になる。 例えば、様々な家族4人向けの話題テーマを毎月更新していくなどである。
「すかいらーくグループの店舗であれば話が盛り上がるなどの印象を持ってもらった方がレコメンドよりも売上は増加するのではないだろうか?」このようなシステム導入にも企業としてどのような店として知覚してもらいたいのか?という視点がもっと入っているべきだ。
今回のシステム開発は、少なくともお客様側からすればすかいらーくグループの価値を大きく高めるものではない。いつも言っているようにお客さんは、特定のフィルター・思考枠を使って商品サービス・店舗を見て評価する。今回のシステム開発は、そのフィルター・思考枠や評価に影響を与えない。大きな投資をしてもお客さんから見える景色が大きく変わらなければ、売上はそれほど大きく変わるものではない。