セグメントすればするほど売上が小さくなっていくのでは?と考える人が多い。しかし、そう考えてしまうのは、デモグラなどの数値を単純に細かく切っていくイメージが強いからだろう。しかし、現代においてデモグラデータなどでセグメンテーションとターゲティングする企業など殆どない。
以前、マルちゃん鍋用ラーメンについて記事にしたことがある。その事例では「昔ながらの中華そば」と同じ麺を「鍋用ラーメン」とすることで売上を拡大させたと書いた。この事例はセグメンテーションとターゲティングを見直した事例でもある。
それまでの「昔ながらの中華そば」は、ラーメンを食べる人の中でも「生麺のほうが美味しい」という軸と「生麺は作るのが面倒」という軸において、「生麺は食べたいが、作るのが面倒」に該当する人をターゲットとしていた。
しかし、「鍋用ラーメン」では、全く異なる視点から消費者を捉え直している。それは「子供や家族には野菜を多く食べて欲しい」という軸と「鍋は子供が好きでない」という2つの軸において「野菜は食べて欲しいが、鍋は好まれない」と回答する人をターゲットとしたのだ。
しかし、このセグメンテーションとターゲティングは、普通のラーメンとして売り出した時よりもさらに細かいセグメンテーションであり、さらに小さいターゲティングであることが分かるだろう。数字だけで見たら、圧倒的にボリュームが少なくなっているはずだ。普通の人であれば、この切り方では売上を拡大することは出来ないと考えてしまうだろう。
しかし、実際の売上は「細かく切ったセグメンテーションとターゲティング」の方が多かった。
その理由の一つとして、企業が消費者を企業の勝手な軸で切り刻んでいることが上げられる。その軸は消費者からすればどうでもいいことであり、消費する際には『大きな影響を与えない軸』でセグメンテーションとターゲティングをしているからだ。「昔ながらの中華そば」では、「生麺で食べたいが、作るのが面倒」と感じる人が大勢いるから十分に売上が上がるはずだと企業側は考えたのだろう。一見、その通りのような気がする。
しかし、消費者からすればそもそも「家で食べるラーメンなんてどれも同じ」という感覚も別に持っており、「生麺で食べたいが、作るのが面倒」と感じてはいるものの「とは言っても、別にどのラーメンでもいい」というのが本音だからだ。「生麺で食べたいが、作るのが面倒」という軸で抽出したターゲットは消費者からすれば『購入するときに大きな影響を与えない軸(どうでもよい軸)』であったから本来予測した数字が出ないのだ。
これは、ある意味、企業側が自分たちの整理しやすいように整理しただけであり、マーケティングの基本中の基本である「消費者に寄り添う」ということが重要な「セグメンテーションとターゲティング」において出来ていなかったことが「昔ながらの中華そば」の失敗であったと言える。
あらゆるマーケティングメディアやマーケティングの関連本では、セグメントを細かくし過ぎるのは、売上が落ちる原因になると書いてあったりするが、そんなのはデタラメである。セグメンテーションとターゲティングを「どの程度まで細かくすべきか」という議論の前に、「どの軸でセグメンテーションとターゲティングをすべきか?」という議論の方が何倍も大切なのだ。そこが売上を左右するのである。
細かくセグメンテーションとターゲティングをすればよいのではない。セグメンテーションとターゲティングをする軸が消費者目線であるかどうかなのである。
近年、データを活用したマーケティングの発展は素晴らしいものである。しかし、データ活用によるマーケティングは、消費者をあまりにも簡単にセグメンテーションとターゲティング出来てしまうがために、マーケターがいつの間にか自分たちの都合で整理して考え始めてしまう危険性を大いにはらんでいると感じる。
本当にこの軸は、「購入するときに大きな影響を与えるのか?」もう一度考えてみてもよいだろう。