大人になった人間にとって、何から何まで用意してもらい、演出してもらい、すべてのことを人の判断に委ねることは、あり得ないことだと思います。そんな「子供じゃあるまいし」と感じることでしょう。例えば、AIであらゆる情報を分析して、私たちに合致した商品を1つ選んでくれることに対して何か違和感を感じてしまうのではないでしょうか。自分で選べないの?「選びたい」という気持ちがあることに気づかされます。しかし、一方で何から何まで自分で考えなければならない場合は、非常に億劫に感じ、何も検討が進められないという側面も持っているのが人間でもあります。家の購入や保険の購入などは考えるべきことが多岐にわたり、検討すること自体が購入のハードルにもなったりします。
つまり、人間という生き物は、『最初から最後まで導いてしまうと満足しないけれど、納得できる説明をして、最後に選択肢を複数用意してやるなど自分で選んでいるという演出をしてやると満足する生き物である』と考えることが出来ます。
「人間は考えたくない生き物である」というセリフは、どこかで聞いたことがあるのではないでしょうか?考えることは非常に多くのエネルギーを必要とします。脳は、1日の摂取カロリーの約3分の1を消費するとも言われているほどです。そのため、人間は本能的に可能な限り脳は使わず休ませておきたい生き物なのです。
そのため、ゼロから100まで自分で考えることを出来れば避けたい。他の人が考えてくれるのであれば、それは非常にありがたいことだと感じるのです。もちろん、人が考えてくれれば何でも良いわけではなく、一定の納得感が必要です。なので、憧れの著名人や知識人が良いと言ったものを選ぶのは、自分に変わって考えてもらっているからであり、一定の納得感を得られるからなのです。
また、人間は自分で考え、納得して行動したい生き物でもあると言いました。自分の意思で選び取ることにこだわります。自分のキャリアを人に決めてもらおうとするような人はいません。自分の意思でキャリアを進んでいると感じたい生き物です。しかし、上記で述べたように自分のキャリアを考えるということは脳を使うことであり、考えたくない人間としては非常に困った状況になります。これが人間の性質なのです。
このような人間の性質を利用してマーケティング担当者は何が出来るのでしょうか?また、どのようなことをすべきなのでしょうか。その答えは、顧客が自分自身で選び取ったという「感覚」を提供しながらも、顧客を自社製品の購入に導いてやることです。自分で選びたいのが人間の特徴なら、選んでもらうのを待つしかないのではなく、ある程度はお客様はこうすべきだという主張をして導いてやるべきです。そうしないと顧客は考えることすら始めないかもしれません。そして、お客様にはこれが良いとも言わないことです。いくつかの選択肢を用意したところで留めておくことで、自分で選んだという感覚を提供することにつながるのです。
つまりは、ここでいうマーケティングとは、自社製品を購入してもらうように納得感を持って導いてやることであり、かつ顧客自身が選び取っているという感覚を演出することだということです。どのように導くのか、そしてどのように演出するのかがマーケターの仕事というわけです。
しかし、当然ですが顧客によって考えたくない内容や考えられる量には違いがあります。マンションを購入する人でも、過去に購入したことのある人と初めてマンションを購入する人とでは、考える内容も知識量もまったく違います。さらに、どのような情報を提供すれば納得感を持ってくれるのか?というレベルも全然違います。初心者に専門用語いっぱいの説明をしても納得感は得られませんが、経験者であれば専門用語があった方が納得感は得られやすいと言えます。
また、初心者は導いてあげないと検討を辞めてしまうかもしれませんが、経験者にはこうすべきという主張は不要であり、それよりも自分自身で良い買い物をしたと思わせるような選択肢を用意してやることの方が大切になってくるわけです。マーケターは、顧客や商材の種類によってそのバランスを上手く取ることでマーケティングは上手くいくのです。ぜひ一度、『最初から最後まで導いてしまうと満足しないけれど、納得できる説明をして、最後に選択肢を複数用意してやるなど自分で選んでいるという演出をしてやると満足する生き物である』という人間の性質を基準にしてマーケティングを考えてみてはいかがでしょうか。