音楽業界の変化
以前はメジャーデビューまでの下積み期間が必要だった
ミュージシャンとしてメジャーデビューするまでにどのようなプロセスを歩むのかご存じでしょうか?なんとなくイメージできる人もいるかもしれません。まずは、楽曲を制作し、路上ライブやライブハウスでの演奏を通して徐々にファンを獲得していき、しばらくすると音楽業界の人の目に留まり、レーベルから楽曲をリリース(インディーズ)し、それが一定数売れると事務所に所属してメジャーデビューというのが大方のプロセスになっています。
そして、ご存知の通りメジャーデビューまでたどり着ける人はごく一部であり、かつメジャーデビューまでに何年もの年月が必要です。学生時代であれば有り余る時間を使って夢も見れますが、徐々に大人になるにつれて活動する時間を取ることが難しくなり、徐々に活動が縮小していくことが多いのが現実です。
SNSの登場による変化
しかし、近年のSNSの登場によりこの一般的と言われてきたプロセスが変化してきています。それは、楽曲制作して音源をSNSにアップし始めたことです。特にTikTokなど楽曲がバズる可能性の高いメディアに投稿することで自身の楽曲を知ってもられる機会が拡大してきたのです。
そして、SNSアカウントのフォロワーが徐々に増加していき、一定数のファンも獲得できるようになってきたのです。これまでであれば、地道にライブハウスや路上ライブによってほんの少しずつ知ってもらうことしか出来なかったのが、今ではSNSで一気に多くの人に知ってもらえる可能性が出てきたというわけです。リアルでの地道な努力の結果、ファンがついてくるように、SNSのフォロワー数が増えていくという現象に置き換えられつつあるわけです。
そのような変化に音楽業界関係者も気づいているわけで、最近のスカウトはSNSに直接ダイレクトメッセージを送ってアプローチする形をとる場合が増えてきています。スカウトする側としても、そのミュージシャンの楽曲に対してどれだけの影響力とファンがいるのかは、SNSのフォロワー数を見れば大体は分かるため参考にしやすいわけです。
これからのミュージシャンに必要なのは「楽曲制作能力」+「拡散力」
これまでは、ミュージシャンというのは極論良い音楽を制作することが出来るスキルさえあればよかったのです。良い音楽を作ることが出来れば、それを評価してくれる人が徐々に増えていき自然とメジャーデビューまでたどり着くことが出来ました。しかし、近年では音楽を聴く人も減少し、ライブハウスに足を運ぶ人も少なくなる中でこれまでの努力をいくら続けていても、以前のように楽曲が広まるということは少なくなってきました。いい音楽を作ることはできても広まらないという現象です。
そのような中で、SNSは自分の楽曲を広める上で格好のメディアなわけです。そのため、これらSNSを上手く使って楽曲を広めることが出来るミュージシャンほどメジャーデビューに近づくようになってきたのです。また、SNSは楽曲を拡散するためだけでなく、製作者の人間性を伝える上でも効果的なツールです。そのため、日常的な投稿によってミュージシャンとファンとの距離が近くなることでファンも獲得しやすくなったと言えるわけです。
SNSを上手く活用することで、自分自身の人間性を魅力的に見せることも可能であり、SNS活用はこれからのミュージシャンにとって必要不可欠なツールと言えるのです。
【事例】個人ミュージシャンがマーケティングスキルを手に入れたら
「imase」のメジャーデビューまでの道のり
imaseという人をご存知でしょうか?音楽業界では知らない人はいないかもしれませんが、SNSを上手く活用して音楽制作を始めてから約1年程度でメジャーデビューまでしてしまったミュージシャンです。彼のメジャーデビューまでの道のりはこうです。
まずTikTokに制作した楽曲をアップしていきます。ただ、数分の楽曲をアップするのではなく、まずサビの部分のみ数秒の曲を制作しそれをTikTokにアップしていったのです。そして、それら楽曲の中の一部が数億回の再生数を叩き出す大ヒットとなりました。
そして次に、そのヒットしたサビしかない楽曲にAメロとBメロを追加することで一曲の音楽にして配信して販売し始めたのです。そこまで大ヒット曲を出したミュージシャンを音楽業界が放っておくはずもなく音楽制作を始めてからたった1年程度でメジャーデビューしてしまったのです。
「imase」のSNS活用戦略
彼はあるインビューでこう語っています。「サビしか作らなかったのではなく、サビしか作れなかった」
何度も言いますが、彼はメジャーデビューする1年前までは楽曲制作をしたこともないような人でした。そのような状態から制作を始めたわけなので楽曲制作スキルは低かったと言います。実際、Youtubeで制作方法を見て学んだそうです。
そして彼はこうも言っています。「まずSNSに投稿することで、制作の仲間を見つけたかった」
一つの音楽を配信するためには、自分自身には十分なスキルがない。なので、不足したスキルを補ってくれる仲間を見つけることもSNSに楽曲を投稿した理由だと言っているのです。実際、一つの曲を配信するに当たっては、MVまで作り上げています。このMVの制作についてもSNSで楽曲を配信して得た仲間なのだそう。
こうすることで1曲を完成させ、配信にまで辿り着いたわけです。
マーケティングの「PDCA」を回す
またimaseは、SNSを活用したことに関してこんなことも言っています。「アップした楽曲の中で一部の曲がバズったわけですが、なぜバズったのかを考えました。」
imaseはどんな曲がバズりやすいのかを冷静に分析し、その結果を楽曲に反映させるプロセスを踏んでいたわけです。これはマーケティング業界では当たり前のことですが、いわゆる「PDCA」をSNSを使って回していたわけです。消費者がどのような音楽を求めているのかをSNSを通して観察し、消費者が求める音楽を提供するというまさにマーケティングを実践していたのです。
この部分はこれまでのミュージシャンとは大きく異なる部分です。これまでであれば、多くのミュージシャンというのは自分の中で良い音楽を作り出すことに情熱を傾ける傾向がありました。私の中での最高の音楽を作り出すわけです。しかし、言い方は悪いですが、それは消費者のことを考えていたわけではありません。偶然、私の中の良い音楽が多くの消費者にとって良い音楽であれば良いのですが、ほとんどの場合そのようなことは起こりません。作る曲作る曲全てが受け入れられず消えていくのはそのためでもあります。
しかし、imaseはそんな自分の中の最高の音楽を追求するというよりもは、消費者が何を求めているのかを注意深く観察することで消費者が欲しい音楽とは何かを追求している点において大きく違うわけです。このようなミュージシャンはある意味新しい種類のミュージシャンと言えるのかもしれません。
個人がマーケティングスキルを身につけるということ
ここまでミュージシャンを例にして個人が生きていく上でマーケティングスキルがいかに大切なのかについて書いてきました。しかし、ミュージシャンに限らず、個人スキルでこの世界で生き残ろうとする全ての人にとってマーケティングスキルは共通して重要なものではないでしょうか。
SNSの時代は、個人でもメディアを持てる時代と言い換えられます。そのような時代においてSNSで自分のスキルを上手く拡散させていくスキルは非常に重要であると言わざるを得ません。コロナ禍になって直接的な人間の関わりが減ってきていることもSNSを活用すべき大きな理由になっているのではないでしょうか。
そして、このSNSを上手く活用するためには、マーケティング的な観点で考えることが重要です。imaeが実践したように自分をどう見せることが受け手に良い受け止められ方をするのかを多くのPDCAを回すことで理解することはSNSだけでなく多くのビジネスの場面で有効であるはずです。
ぜひ、多くの人にマーケティングスキルを身につけてもらい自分の力で生きていける力強さを手に入れて欲しいと思います。