行動データの殆どはパターンのデータであると言われている。というのも、人間は常にパターン化したがる傾向があるからだ。なんでもパターン化することで脳の情報処理を自動化させ省エネしようとする生き物であるからだ。そのため、特に意識しなければ、人間はどんどんパターン化された生活を送るようになるのだ。結果として、行動データを取得すると人間のパターンのデータになるのだ。
では、そのようなデータの特性を生かしてどのようなことに活用することが出来るのだろうか?こんな行動をすると次にこんな行動をするというデータが得られるとき、企業がよく実施するのがレコメンドである。こんな商品を購入している人は、こんな商品を購入する可能性が高いことを知っているからこそ実現できることである。
しかし、以前このレコメンドに批判的な意見をする人がいた。このようなレコメンドによって私たちの選択肢が狭まっているのではないか?というのだ。確かに、人はレコメンドされるがままに購入してしまうことがある。アマゾンのこんな商品も買われていますに並んでいる商品を買ってしまうことは実際よくある。だからこそ、本来であればもっと素敵な出会いがあったはずなのに、レコメンドされるために、そのチャンスを逃しているというのだ。
しかし、この考え方には反対意見もある。人はそもそも興味のあることしか目に入らないし、注意を向けることはないという考えだ。つまり、私がマーケティングに興味があるからこそ、マーケティングの本に反応するわけで、もし、土木工事について興味がなければ、レコメンドされたところでクリックさえしないし、何の反応もしないだろうということだ。だから、レコメンドに支配されていると言いたくなる気持ちも分かるが、レコメンドされなくても結局はマーケティングの本を買っているはずだということだ。
やはり、人間という生き物のは、無意識にパターン化してしまう生き物なのだ。それでいてパターン化されてしまうことが嫌いな生き物なのである。本当はマーケティングにしか興味を示さないくせに、マーケティングの本ばかりレコメンドされると面白くなくなってくるのだ。どこかに変化が欲しくなる。でも、変化することなんてほとんどない。もしかすると、土木工事の工法にインスパイアされるようなことがあるかもしれないのに、決してそのような本をレコメンドされても興味を示すことはしないのだ。アマゾンからすれば、違う商品をレコメンドしろって言われたからレコメンドしたのに全く反応しないじゃないか!というわけだ。
しかし、一方でレコメンドが非常に上手に機能する時もある。実際、何でこんなにも自分の知りたいことを知っているのだ!と思ったことがある人も多いのではないだろうか。こんな時ほど、「レコメンドしてくれてありがとう!」と叫びたくなるものだ。大体そのような感動のレコメンドは、マーケティング関連の本でありながら、少し違う分野の要素を含んだ本であったりする。例えば、心理学的な本でありながら、マーケティングに生かすことのできそうな本であったり、歴史学や哲学の本でありながらマーケティングのヒントになりそうな本である場合が多い。
なぜ、こんなにも感動するのだろうか?私は、パターン化と変化の絶妙なバランスが保たれているからだと考えている。これまで何度も読んだことのあるようなマーケティングの本は、はっきり言ってパターン化したものである。レコメンドされても面白くもなんともない。とはいえ、土木関連の本をレコメンドされてもまったく興味がない。そんなものレコメンドするな!と叫んでしまうかもしれない。しかし、哲学とマーケティングがテーマの本や、土木とマーケティングの関係を書いた本であれば非常に興味を示すだろう。なぜなら、関心のある分野と関心のない分野が重なり合っているからだ。
以前の記事でも書いたが、人間はあまりにもこれまでの慣習とは違う商品には興味を示さない一方で、これまでの慣習を踏まえながらも、新しい要素を取り入れた商品には飛びつく生き物である。この人間の特徴は、マーケティングに携わる人間として必ず知っておいた方が良い特徴である。マーケティングのコミュニケーションにおいても新しさを求められるものの、完全なる新しさではいけないのだ。どこはこれまで通りにしてどこを新しくすべきなのか?を考えることで顧客が反応するのである。
だから、レコメンドの精度をこれまで以上に上げるのであれば、興味分野と違う分野を繋げるような本をレコメンドすることで達成することが出来るはずなのだ。顧客は、興味分野にどっぷりハマる時期と他の分野を繋ぐような変化を求める時期を行ったり来たりしているのだ。まさに、パターン化しながらも、パターン化しないようにしているのだ。
マーケティング担当者として、顧客のゆらぎとも言うべき行ったり来たりを把握すべきである。そして、データによって顧客が今どっちに行こうとしているのかをキャッチすることで成果につなげることが出来るはずなのだ。