人は役割を演じていると言われる。ある時は会社員としてある時は父親を演じる。確かにそういう一面もあると思うが、少し違和感を感じないわけでもない。なぜなら、私たちは、その役回りを意識して生活しているわけではないからだ。私たちはきっと演じているというよりも、仕事の時は、会社員としての価値観や考え方・感じ方を優位にしているもしくは、活性化させていると考えた方がいいのではないかと思っている。家庭にいる時は、父親としての価値観や考え方・感じ方が優位になり、会社員としての価値観や考え方・感じ方は奥に追いやられているのである。
このように私たちは、ある時は会社員として、ある時は父親として、またある時は単なる消費者としての考え方や感じ方を持っているものである。しかし、これは私は思うに、考え方や感情の使い分けは、その人が置かれている状況に大きな影響を受けていると考えている。これは、会社にいる時と家庭にいる時は違うということもあるが、性別も生活環境も何もかも違う人同士でも、同じ状況においては、考え方や感じ方が似通った一つの方向に集約されるということである。例えば、学生時代のテスト中というのは、その教室にいる人の殆ど全てがその問題に関する思考と感情を持っているはずである。その教室にいる30人前後の生徒は皆同じような思考や感情を抱いているのである。つまり、人は同じ状況下では異なる人でも同じように考え感じる傾向があるという事である。私は、ここにビジネスチャンスがあるのではないかと思うのだ。つまり、人が何か制限された状態下にいる人たちをターゲットとすることで何かが見えてくるのではないかという事である。
何かに制限された状況にいる時、そこにいる人たちの中で『考え方や感情の一つの同じ大きな流れ』が出来る。その『流れ』に何を提供することでそれらの制限下に置かれた人々を満足させることが出来るのかという風に考えるのである。例えば、携帯ゲームが流行したのも通勤時間の「持て余した時間を潰したい」という多くの人が持つ「ある制限された環境で浮かび上がった思考や感情」を上手く満足させたからに他ならない。このようなビジネスチャンスをものにするためには、様々な「制約された環境」を沢山抜き出すところからスタートし、そして、どうすれば自社商品やサービスを使って満足させることが出来るのかということを考えるのである。
企業の多くは、自社の商品サービスを既に顕在化しているお客さんへ売ろうと努力する。しかし、それでは競合との厳しい競争に挑むということであり、疲弊することは目に見えていることが多い。しかし、今回提案したような、まだ顕在化されていないニーズを見つけるための手法を使うことで自社の商品サービスの新しい使い方や新しい見方が出来るようになり新規顧客を発掘することが出来るようになると思うのである。
人は、常に様々な状況から大きな影響を受けて思考や感情が揺れ動いている。今の多くの企業は、その「既に発見されている同じ状況下で生まれた考え方や感情」に寄り添って自社の商品サービスを多くの人に提供しているが、それと同時に「まだ見つかっていない制限された状況」を発見することで新規顧客を獲得することも可能なのである。人々がどのような環境下に置かれているのか、そして、その中でどのように考え感じているのかについて十分に観察そして研究し続けなければならないのである。それこそが、ビジネスで勝つための秘訣なのであると私は思うのである。