インバウンドマーケティングは「揺れ動く心」をとらえる

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「検索は人々の興味・関心から生まれる行動」とはよく言われることである。しかし、これはもう、リアルな店舗でもあまり変わりないように感じる。リアルな店舗では、偶然通りかかったお客さんの感情・課題・興味をその店舗が解決出来なければ店に入ってくれない。例えば、飲食店の前に空腹のお客さんが通らなければその飲食店はお客さんの感情・課題・興味を満たすことは出来ない。だから、リアルな店舗はどんな場所で営業するのかに大きな影響を受けるのである。しかし、ネット上では感情や疑問を検索という行為に置き換えてくれる。だから当然、空腹のお客さんが目の前を通る場所に店舗を置く努力は必要ない。そのかわり、ネットでは、それぞれのキーワードで表示される検索結果の順位によって大きな影響を受けるのである。例えば、「渋谷 ラーメン」の検索結果の10位以内に入っているページは表示回数が非常に多い(=つまり、店舗の前を通る人数が多い)。しかし、2ページ目以降になるとグンと表示回数は少なくなる(=裏路地の店になってしまう)。だから、リアル店舗が少しでも人通りの多い場所で営業するために多額費用をかけるように、ネット上でもその検索結果の上位表示を目指して多額の費用をかけてSEO対策をするわけである。

このようにリアルもネットもやっていることは大きくは変わらない。集客のために多くの人が行き交う「場所」を獲得するために多くの金額を投じているのである。

結局は、「金次第」。という事になるが、そんなことはないのはリアルでもネットでも同じである。例えば、人が全く通らない汚い路地裏に行列の出来るラーメン店があるように、ネット上でもビックワードでの検索結果で上位表示されなくても十分なアクセスを得ることは可能である。路地裏のラーメン店になぜ行列が出来るのか?その理由を知ることが出来れば、ネット上でも同じようなことが出来るはずである。

 

裏路地のラーメン店に行列が出来るための「4つの要素」

裏路地のラーメン店に行列が出来る理由。それは、誰もが想像できるように、まず第一に「おいしい」からである。そして、第二にその「おいしいが口コミで広がっていくこと」である。路地裏の行列の出来るラーメン店は、まず何よりもその商品が素晴らしい。どんな条件下でも、商品力がなければ何にも出来ない。どんなに人通りの多い場所で開店出来ても商品力がなければ客はいなくなるだけだ。お客さんを満足させる商品力は、必須条件である。しかし、口コミでの拡散は、商品力があれば広がっていくというわけではない。世の中には、どんなにおいしくても口コミが広がらずに苦しむ店がある。マルコム・グラッドウェルは、著書で「口コミは「ある閾値」を超えると、一気に広がっていく」と記している。その閾値がどれほどのものなのかは、様々な条件下で異なるため、誰も知ることは出来ないが、その閾値を超えるために必要となる要素は大体決まっているように私個人としては考えている。その要素とは、下記のようなものである。下記の要素は、ある場所では、一つの要素さえ満たしていれば口コミは広がるだろうし、違う場所では2つか3つかもしれない。しかも、それぞれの要素をどこまで突き詰めればいいのかもその場所によって異なるだろう。

 

  1. 競合がどのような顧客ニーズを満たしているか?すでに、別店舗が同じニーズを満たしているか?
  2. 顧客ニーズが他の手段(ラーメン以外)で満たせるのではないか?
  3. 商品を適切なターゲット層に適切な料金で提供出来ているか?
  4. 同じニーズを満たすことが、簡単か?同じ商品を別店舗が簡単に再現できるか?

一つ目の要素は、「周辺の競合ラーメン店とは違うニーズを満たしているか」という点である。例えば、激辛ラーメン店がいくつもあり、かつ商品力が同レベルである場所では、他の地域より商品力があったとしても、この場所での競合のラーメン店との差別化が出来ないので口コミは広がっていかない。激戦区と呼ばれるようなレベルの高い場所では、同じようなニーズを満たそうとしても難しい状況に陥る。数百メートル先のラーメン店と比較されることが簡単で、かつ、商品力が同じレベルでは、その激辛ラーメンの印象は薄くなってしまう。激辛ラーメンがないような場所であれば、口コミが広がる可能性は十分にあると考えられる。

二つ目の要素は、「ラーメン店以外で同じニーズを満たせるか」という点である。例えば、カレー店が沢山あるような地域で出店してもやはり激辛ラーメンの印象は薄くなる。口コミが発生させるレベルには達しない可能性が高い。

三つ目の要素は、「商品を適切なターゲット層に適切な料金で提供できているか」という点である。例えば、その地域で競合店にはない独自ニーズを満たす商品を出せるとしても、その地域の人にとって好まれないものであったり、料金が高すぎたり、敷居が高すぎたりすれば口コミは発生しにくい。ターゲットの様々な側面を十分に研究した上で出店しなければいけない。お年寄りが多く居住する地域に激辛ラーメンがあっても恐らく口コミは広がらないだろう。お年寄りがネットを使えないということではなく、お年寄りのニーズを満すことが難しいためだ。

四つ目の要素は、「その商品を多店舗がすぐに真似をすることが出来るか」という点である。例えば、その地域で競合店にはない独自ニーズを満たす商品を出せるとしても、その商品がすぐに競合店によって再現することが出来てしまうのであれば、多くの利益は最初だけしか得ることが出来ないだろう。確かに先行者利益を確保して次につなげるという戦略もあり得るが、その商品の口コミが継続するのは難しい。

つまり、ここで言いたいのは、差別化である。戦略とも言える。どの地域に居住している、どんなお客さんのニーズに、どのように競合店が満たしていないニーズを満たすのかという事である。そして、いかに再現することが出来ないようにするかという重要な要素も必要である。このようなことを十分に考えて行動することが出来れば、汚くて誰の人通りもない場所に店舗があったとしても、口コミを発生させることは十分に可能であると考えられる。数人でも入ってくれれば、そこに新しい価値を見出すお客さんは必ずいるはずであり、来店するお客さんの頭の中にこんなものを食べるならこの店という意識が出来上がる。そして、その周辺では、決して満たされることがなかったニーズが満たされることに食べた人は感動し、口コミを発生させるのである。そして、どこも真似できないことによりその地域での強固な基盤が出来上がるのである。

この発想は、資金がある企業が行うような大きな人の流れの中に店舗を構えることで多くの人に訪れてもらうという受け身的な発想ではない。資金がある企業は、店舗を構えそこから動かずにじっとしているのが基本だ。しかし、今述べたような手法の発想は、こちらから人々へ独自のメッセージを発信し、それを人伝いに伝えてもらおうとする能動的な手法である。待つのではなく、こちらから発信するのである。そのために、必要なことが独自のメッセージであり、競合店との差別化なのである。その店舗が発するメッセージがどれだけターゲット層に刺さるか。そして、それをどれだけ真似されずに継続するかが重要なのである。

 

キーワードの差別化

では、これを踏まえてネットの場合はどうなるか考えてみよう。ネットの場合も最初に独自メッセージを開発することはリアルと変わりない。まず、競合とは違うニーズを満たすことが出来なければ人気のない裏路地のように少ない検索表示回数では人伝いに拡散することなんて出来ない。まずは、競合が一体どんなニーズを満たしているのか、その上でうちはどんなニーズを満たそうとするのかについて十分な議論をすべきである。それが完了して初めてその独自ニーズを満たすための商品開発をすべきなのだ。そして、その時に前述の「4つの要素」に照らし合わせながら沢山の議論をしなければならない。

 

  1. 『競合がどのような顧客ニーズを満たしているか?すでに、別店舗が同じニーズを満たしているか?』
  2. 『顧客ニーズが他の飲食店で満たせるのではないか?』
  3. 『商品を適切なターゲット層に適切な料金で提供出来るか?』
  4. 『同じニーズを満たすことが、簡単か?同じ商品を別店舗が簡単に再現できるか?』

それが出来たら今後はキーワードの差別化である。ネットの場合、ビックワードの検索順位では、資金力のある店舗には勝てないから、少し視点をずらす差別化が必要である。例えば、「渋谷 ラーメン」では資金力のある店舗には勝てないから、「渋谷 激辛ラーメン」で検索結果の上位を目指すなどである。しかし、この程度の差別化だけでは競合店との激しい価格競争になりかねない。同じ激辛ラーメン店が多数あってSEO対策をしっかりやればすぐに10位以外へと落ちていくだろう。もっとエッジを効かせる必要がある。そこで必要なのが最初に設定した独自メッセージなのである。例えば、「脂肪燃焼効果のある激辛ラーメン」を独自メッセージのコンセプトとするのであれば、「渋谷 激辛ラーメン 脂肪燃焼」などになるわけである。こうやって、人が少ない裏路地のように検索表示回数が少なくても上位にサイトコンテンツを表示させることが出来るのである。

 

お客さんに寄り添うコンテンツ開発

このように店を見つけてもらったら、その人たちに大きな印象を与えるためのコンテンツ作成づくりである。独自メッセージが「脂肪燃焼効果のある激辛ラーメン」なら、ターゲット層は30代40代の男性やもしかすると女性も含むことも出来るかもしれない。そんな人々に向けてコンテンツを作成していくのだ。また、彼らはみんながすぐに激辛ラーメンを食べたい人ばかりではないということだ。単なる興味本位の人もいれば、明日行きたいと思っている人もいるし、今日まさにスマホで検索して行こうとしている人もいる。ターゲット層は絞れてもそれらターゲットが常に同じ気持ちではないことを十分に気を付ける必要がある。また、ネットの役割という意味では、すぐに行きたい人よりは明日以降に行くかもしれない人を来店したくなるように導いてやることの方が必要だと思われる。すぐに行きたい人は何も言わなくても行くのだし、行ったら行ったで差別化された今まで満たされなかったニーズを満たすことが出来る商品に感動してくれる可能性が高いからだ。お客さんが今行こうと思った時点でネットでの役割はほぼ完了しているのである。あとは、リアル店舗でどんなサービスと商品を提供できるかによって拡散していくのかどうかが決まるのである。だから、ネットでのコンテンツやメールマガジンやeBookなどは「将来来店してくれるかもしれないお客さん」に向けて作成すべきだと考えることが出来る。

また、コンテンツは「役に立つ文章を書こう」とよく言われる。しかし、私はそれは大切なことだとは思うがそれだけでは不十分であると考えている。役立つ文章であり、かつ、お客さんが考えたいことや感じたいことを書くことが大切だと考えている。以前の記事でも書いたことであるが、人は誰かに言われたことに反応することはない。人はどうしようもなく考えたいようにしか考えないし、感じたいようにしか感じない生き物である。人々に何かを伝えるために、自分たちの論理で自分たちの立場で伝えることは絶対にしてはいけない。例えば、ターゲット層は日常生活の中でどんな傾向を持っているのだろうか?例えば、今の30代40代の人々の考え方や感じ方や習慣にはどんな特徴があるだろうか?これを理解するためには、非常に多くの調査と研究が欠かせない。例えば、激辛ラーメンがどれだけの運動に匹敵するのかという記事や激辛ラーメンの血流促進効果の記事など健康という側面からコンテンツを作成してもいいかもしれないし、ストレスと激辛ラーメンとの関係もいいかもしれない。日々ターゲット層がどんな生活をしてどんなことを考え感じているのかについて敏感になっていなければ継続的に、かつ幅広いコンテンツを作成することは出来ない。

 

真似されない独自のマーケティング「活動」

そして、私がもう一つ重要だと思っているのは真似されない『独自メッセージを生み出すための独自の活動』である。これは商品が真似されないためにすることもあるがマーケティングの手法やコンテンツを生み出すための手法や活動においても真似されないように努力することがとても重要だと思うのである。業界ニュースなどを見て新しい手法をうちもやってみたいとすぐに飛びつきたくなる気持ちも分からなくはないが、その結果が引き起こすのは同質化ではないだろうか?どの企業も同じようなやり方で取り組めば、必然的にどこか同じようにお客さんは感じてしまうのではないかと個人的には思っている。特に似た商品サービスを扱っている競合同士が同じマーケティング活動を実施したら、商品だけでなくWebサイトもそのコンテンツも似てしまうのではないかと思うわけである。もし、本当の意味での独自メッセージなのであれば、そのメッセージを生み出し続けるための独自の手法や独自の「活動」があるはずだと思うのだ。印象的な独自メッセージがあるからこそ、人通りが少ない場所でも行列が出来るわけであり、検索表示回数が少なくても多くの人があなたのページを訪れるのだ。だとしたら、その独自メッセージを生み出すためのプロセスやそのマーケティング活動が同じなはずがないのである。独自メッセージは、そのような日々の活動からお客さんに提供されるのだということを強く意識しなければならない。独自メッセージを生み出すのは、私たちかもしれないが、それをお客さんに正確に伝えるためには、そのための独自のマーケティング「活動」が絶対に欠かせないのだ。どんなに素晴らしい独自メッセージを生み出せても、そのメッセージを伝えるための活動がおろそかでは何の意味もないのだ。

また、インバウンドマーケティングにおいて見込み客を獲得した後にお客にするためのリードナーチャリングでは特徴的な独自のマーケティング活動が適切に実践されていなければ何の役にも立たなくなる可能性があると考えている。今、インバウンドマーケティングのためのツールを使うことで今までにない顧客への詳細なスコアリングが可能になっている。どのお客さんがどのページに訪れていて、どのメールマガジンを読んでいるのかなど今までにない詳細なデータを手に入れることが可能になっている。これらデータを活用することでよりパーソナルな情報発信が可能になり、独自メッセージをより効果的に提供することが可能になる。確かにこれらデータは有用であるが、しかし、そのデータが既に差別化されていなければそのデータの有用性はとても低いものになる可能性がある。例えば、独自メッセージがあるにも関わらず、そのための適切なマーケティング活動が行われなければ、脂肪燃焼効果のある激辛ラーメンに興味がある人のデータがそもそも手に入らない可能性がある。また、脂肪燃焼効果のある激辛ラーメンに興味のあるデータを手に入れたとしても、独自メッセージを伝えるためのマーケティング活動が適切に実践されなければ何の意味もないのである。全ての活動は、独自メッセージを正確に適切に伝えるためにあるのだ。

ツールを使えばマーケティングが出来るわけではない。マーケティングのツールは、あくまでマーケティング活動を「支援」するものである。マーケティング活動は、人がすることだ。独自メッセージをお客さんに十分に伝えるためのマーケティング活動をして初めて有用なデータが手に入り、そして、そのデータをツールを使って最大限活用することが初めて可能になるのである。ツールは、どこまで行っても脇役であり、マーケティングの主役は常にお客さんでなければならないのである。

 

マーケティング「活動」による差別化

しかし、現実的には未だ満たされていないニーズを見つけることは難しいとよく言われる。だからよくある戦略がすでに存在するニーズを対象とすることである。もちろん、同じことをやるのではない。ニーズは同じでもそれを満たすためのマーケティング「活動」を変えることで差別化を図るのである。その時に考えるべきは、競合が苦手としていたり、未熟な部分に注力することである。例えば、本来はもっとweb戦略を行うことで多くのお客さんを呼べるのに競合が出来ていないのであれば、そこに注力したマーケティングをすることで競合から優位になることができるはずである。そして、真似しても同じレベルまで到達するのに時間がかかるまで差をつけてしまえばいいのである。理想はもちろん誰も真似出来ない独自メッセージとそれを実現するためのマーケティング活動であるが現実には競合と同じ独自メッセージで異なるマーケティング活動でもある程度は優位に立つことができると考えられる。最も戦略的でないのは価格を下げることで競合から優位に立とうとする行為である。価格を下げるのはメッセージもそのための活動も同じだからである。そうなると価格競争になりお互いが疲弊するだけで両者にとっても何の利益もない状況に陥る。それだけは避けなければならない。そのためには、やはり競合との差別化が必要なのである。

 

揺れ動く心をとらえるために

人の心は多様であり、常に変化している。人はいつも同じ感情を抱いているわけではない。常に変化している。ゆれているのだ。誰でも毎日同じものを食べることは出来ない。ふらっと大手飲食店に行くこともあるし、ふらっと小さい店舗に行きたくなる時もある。そのような心の動きをどれだけとらえることが出来るのか。そして、一度つかんだお客さんにどれだけ大きな印象を与えることが出来るのかという事である。一度、大きな印象を与えることが出来れば、うつろう感情がめぐりまわってまた激辛ラーメンを食べたいと思った時に、再び裏路地の店舗を選んでもらえるのである。ここでは絶対に負けないという独自メッセージを持つことによってのみ、多くを考えずフワフワとうつろいやすい人々の心をつかむのである。そうすることで、激辛ラーメンなら裏路地のあの店というお客さんの中に確固たる地位を築くことが出来るのである。