仮説思考はマーケティング担当者にとって非常に大切なスキルである。データ活用が必須となった今、データから仮説を導き出す能力が必要とされているということもあるが、それ以前から仮説思考はマーケティング担当者に限らずビジネスマンにとって大切であることは言われてきた。
スピードを求められる現代において、手当たり次第に取り組むことはビジネスの世界では評価されない。そうではなく仮説を立て、それを検証し、また新たな仮説を立てるという繰り返しによって適切な課題設定と原因分析が可能になる。
しかし、仮説思考に取り組んでも、なかなか上手くいかない人が多い。多くの場合、誰でも思いつくような仮説しか出てこない。仮説を検証してみて違うことはわかったが、その後が続かないことなどに悩む人は多い。コンサルタントのように切れ味の鋭い仮説を立てるようになりたいと思うが現実はそうはならない。
仮説思考は、鍛える必要のあるスキルである。元ボストンコンサルティンググループの内田和成氏は、仮説思考は経験がものを言うと言っている。多くの経験を積むことで、進化した本質に迫るような仮説からスタートすることが出来るという。
しかし、経験を積めと言われても今の仕事ではそのような機会がないという人がほとんどだろう。そのため、内田氏は著書「仮説思考」の中で仮説思考の鍛え方を提示している。今回はそのことについてご紹介したい。
仮説思考力の鍛え方
(1)So Whatを常に考える。
So What(だから何?)とは、身の回りで起こった現象について、その結果として次にどのようなことが起きるのか?を考えることである。例えば、iPhoneが発表された時、どの業界・どの企業にどのような影響があるのかを考えるということだ。今日のニュースで、Googleがゼンリンとの契約を解除したのではないか?といわれているが、その結果として次にどのようなことが起きるのか?を考えることだ。この現象の結果、次に起こると予想されることは沢山あるはずだ。それらを考えるのだ。
(2)なぜを5回繰り返す
トヨタでもおなじみのWhyを5回繰り返すという作業だ。これを日常的に行うことで仮説思考は磨かれる。そうすることで問題の本質が見えてきて、適切な施策の方向性も見えてくる。
つまり、仮説思考を鍛えるためにはお金はあまり必要ない。別にビジネススクールに行かなければ仮説思考は身につかないというわけではない。日常的な出来事から未来を予測したり、なぜそのような結果になったのかを「毎日」考えることで身に付けることが出来るのだ。
毎日、ネットで経済ニュースをみれば「株式会社●●●の決算が史上最高益を記録した」という類の記事がある。そのようなニュースを見たら、なぜそうなったのか?(原因仮説)を考え検証してみるのだ。ここでポイントは、まず仮説を立てることだ。他の記事を見てはいけない。まず最初に仮説を立てて、それを立証するために必要なデータは何かを考え、その後ネットや他のデータにあたることだ。
他にも「高齢化社会が到来するとどんなビジネスが増えるか?」ということに対して、複数の仮説を立てることが出来るはずだ。もしかすると「お金を使わない高齢者が増える」かもしれない。そのようなことになった場合は、「遺産ビジネスが流行る」と考えることが出来る。逆に「高齢者がお金を使うようになる」可能性もある。そのような場合には、「孫と高齢者をセットにした商品サービスが流行る」とも考えられる。さらに視点を少し変えて「アクティブな高齢者が増える」こともあり得る。そのような場合には、「高齢者向け旅行・スポーツ産業が流行る」とも考えられる。もしかすると、すべてが同時に起きるかもしれないし、順番に起こるかもしれないし、いろいろな可能性がある。そのようなことを考え、検証することで仮説思考力は鍛えることが出来る。
仮説思考を鍛えるための材料は、どこにでもある。近所に新しく出来た飲食店は流行るのかどうかを考えてみることや、気に入らない上司に上手く対応するための仮説を考えることも一つの材料になる。
仮説思考はどんな環境にある人でもその人次第の心の持ち方によって鍛えることが出来るものだ。毎日の慣れ親しんだ思考法に安住せず新しく取り組むことが出来るかどうかだけである。