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マーケティング視点で見る「京都の花街が生き残れる理由」

芸妓さんや舞妓さんとのお座敷遊びと言われると、私たちとは非常に遠い世界の話のように感じてしまうだろう。 「一見さんお断り」の非常に閉鎖された社会と感じる人が多いのではないだろうか。

この花街は、江戸時代に発展し最盛期を迎えたのは昭和初期である。そのころには、京都以外にも浅草、新橋、赤坂、神楽坂、南地、曽根崎など40以上の花街が存在した。しかし、昭和40年以降は花街の数も芸妓さんや舞妓さんの数も減少の一途をたどる。

現在においては、東京と大阪の花街は風前の灯火である。一方、京都においてはいまだに5つの花街が「五花街」と呼ばれ産業として残っている。さらに、芸妓さんや舞妓さんの数は下げ止まっているという。この違いは何にあったのか?マーケティングの視点から考えていきたい。

芸妓さんや舞妓さんとのお座敷遊びは、上述のように「一見さんお断り」である。しかし、芸妓さんや舞妓さんの踊りを見ることが出来る場所がある。「歌舞練場」と呼ばれる劇場では4500円を支払えば誰でも鑑賞することが出来るのだ。この「歌舞練場」は、花街が運営する誰でもウェルカムな場所である。今では、日本人観光客だけでなく外国人観光客で賑わっている。

この「歌舞練場」は明治時代、文化の中心が京都から東京に流れマーケットが激減したことへの対策として始まった。今以上に危機的な状況であった花街は、この「歌舞練場」という場で踊りを一般公開することで息を吹き返したのだ。そして、その施策が現代にも効果的に作用しているのだ。

この復活は、「一見さんお断り」という制約から生まれた『希少性』を活用した施策と考えることが出来る。もし、お座敷遊びを一般公開していたら現在の姿はなかっただろう。お座敷遊びを一般公開することで一時的な復活の代償として「希少性」を失っていたはずだ。お座敷遊びの一般公開は、それまで築き上げてきた貯金(希少性)を全て使い果たそうとするようなものだ。お座敷遊びを体験した人が世の中に溢れれば希少性が失われるのは時間の問題であっただろう。

しかし、京都の花街はそのようなことはせず、それまで伝統的に続けられてきた「一見さんお断り」という制約を資産として活用した。制約のある世界と併行して、制約のない世界を作ることで「希少性」を保ちつつ、広範囲に認知させ魅力を伝えることに成功したのである。

いわば、希少性のあるものや貴重なものの「チラ見せ」である。しかし、この「チラ見せ」効果が有効だったのは既に価値が高いものとしての一般的な認識があったからこそであることには注意すべきだろう。

人はいつも何らかの「フィルターや思考枠」を通してモノゴトを判断する。この花街の場合は、「一見さんお断り」という特異なルールが希少性を生み出すフィルター・思考枠の役割を果たしている。「一見さんお断り」のルールによって目に見えないものになり、人間の見たい心理を刺激することで様々な憶測を呼び、庶民によって自然に貴重なものとして持ち上げられているのである。

一見制約ばかりで自由ではないと感じるようなものが実は資産であり、それをいかに活用するのかという事例としてこの花街の施策は注目できるものである。

参考文献:マーケティング・リフレーミング-視点が変わると価値が生まれる(有斐閣)

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