先日、餃子の王将が中国から撤退するというニュースが飛び込んできた。今回は、この餃子の王将がなぜ失敗したのかについてマーケティング的な観点から書いてみたいと思う。
基本的な私の意見は、東洋経済オンラインの下記の意見とほぼ同様である。現地化を進めることが出来ず、日本人に最適化された餃子が中国人には受け入れられなかったという事である。
この記事では、少し違う視点からこのことについて私の意見を書いてみたいと思う。
◆売れる商品とは何か?
中国と言えども、基本的に売れる商品と売れない商品は共通していると私は思っている。売れる商品というのは、お客様がその商品・サービスの価値を十分に理解していて、かつそれを購入することで十分な満足を得ることが出来ている場合である。逆に売れない商品というのは、その商品・サービスがどんな価値を提供してくれるのか理解できなかったり、理解できても十分な満足を得ることが出来ない場合である。
また、売れる商品にも2通りある。一つは勝手に売れる商品であり、もう一つは、多くの広告宣伝をすることで初めて売れる商品である。勝手に売れる商品というのは、お客様自身が既に欲しいと思っている、つまり、顕在化した欲求を満たすことが出来る商品である。日々の生活の中でこんなのが欲しいといつも思っているところにその欲求を見事に満たす商品がこの場合である。このような商品の場合は、広告宣伝は基本的に必要ない。口コミでどんどん広まり、自然と売上が上がっていく。
一方、多くの広告宣伝を必要とする商品というのは、お客様自身が気づいていない問題を解決する商品であったり、全く新しい価値を提供する商品の事である。このような商品は、いくら店頭に並んでもその商品がどんな欲求を満たしてくれるのかがお客様には伝わらないためにそれだけでは売れない商品である。そのため、企業はこれら商品を売る為に、この商品がどんな欲求を満たすのか、この商品を使うことでどんなメリットがあるのかについて広告宣伝を使って説明し、そして説得しなければならない。その商品がいかに良いものかをお客様に気づいてもらい理解し納得してもらうまでは売れないのである。
◆飲食業は、顕在化した欲求(おいしい)を満たすものである。
餃子の王将の場合、勝手に売れる商品というのは、お客様がおいしいと思う料理である。そうでなければならない。なぜなら、お客様がこの料理がどんなものか分かっていて、何がおいしいのか分かっている必要があるからだ。当たり前だが。つまり、飲食業の場合、広告宣伝が必要な特徴を持ったような何の料理か分からず、何がおいしいのか分からない料理というのは基本的にないのである。
例外があるとすれば、どこかの国の民族料理を出す店である。日本人が全く知らない料理でおいしいとも思わない料理がよくあるがあれはまさに全く新しい価値を提供している。このような料理は何がおいしいのか、どうやって味わうものなのかを伝えなければならない。しかし、それを理解するためには、その国の食文化を十分に理解し体験しなければならず、殆どの日本人には全く受け入れられない。なぜなら、その国の食文化を体験し理解することはとてつもなく大きなハードルだからだ。
◆飲食店が海外に進出すると顕在化した欲求を満たすものから、全く新しい価値を提供するものに変化する。
餃子の王将は、日本で展開しているときには、日本人がおいしいと思うものを提供出来ていた。しかし、海外に行った瞬間にそれは全く違うものになることに気づいていなかったのだと思う。今まで長年にわたり餃子の王将が満たしていたのは日本人の欲求であって、中国人の欲求ではない。そこに本当の意味で気付けるかどうかが飲食業が海外進出で成功するか失敗するかの分かれ道になるのである。
日本でやって来たように今まで通り、日本の味で料理を提供していたのであれば、それは中国人からすれば、全く新しい価値を提供するものであり、何がおいしいのかを理解し納得しなければならない料理になってしまう。まさに、どこかの国の民族料理である。そして、それを理解するためには日本の食文化を十分に理解し、様々な日本食を食べてそれがおいしいと感じるまでに日本の食文化に精通している必要がある。日本の味で中国に進出したらどこかの国の民族料理のように変わってしまうという事に餃子の王将は気づいていたのだろうか?きっと気づいていなかったからこそ失敗しているのだろう。もちろん、誤解のないように言うが、極端に味覚が違うわけではないので、餃子の王将の料理を食べてマズイとは思わないだろう。しかし、どこか違うのは確かであり、頻繁に食べたいと思うようになることはあまりないだろう。
どんなに日本の味を押し出そうとも、中国人のおいしいではない。何がおいしいのか理解できない商品に過ぎないのである。どんなに日本の餃子の味がいいと伝えても勝手に売れる商品になるのは難しいのである。日本の食文化に精通するという非常に高いハードルを越えさせなければ、どこまで行ってもどこかの国の民族料理なのである。
◆もし、本当に海外進出で成功したいと思うなら、その国の料理をおいしいと思えるくらい食文化に精通しなければならない。
餃子の王将は、結局は日本の味を変えなかった。もしくは、変えることが出来なかった。その最大の原因は、中国人のおいしいが理解できなかったからではないだろうか。餃子の王将は、日本の味が伝わらなかったと言っているがそれは餃子の王将の本気度の低さを感じさせるだけである。日本の味が一番とでも思っていたのだろうか?日本人のおいしいは世界共通のおいしいとでも思っていたのだろうか?もし、そうなら海外進出は辞めておいた方がいい。どの国に行っても絶対に失敗する。
今後も海外進出する飲食業はあるかもしれない。その時に私が唯一アドバイス出来るのは、その国の料理を心からおいしいと思うくらいその国の食文化にどっぷりと浸かることである。それが出来なければ、どんなおいしい料理を作る技術があっても、その技術は全く活かすことは出来ないだろう。