マーケティング関連の記事を書いていますが、基本思いつきのメモです。なので、記事を信じないでください(笑)

そもそも離反率を下げるマーケティングは本質的なのか?

『新規顧客1人を獲得するためには、既存顧客1人を維持するために必要な費用の5倍を要する。』

この言葉(法則と言ってもいいかもしれない)を聞いたことのない人はいないだろう。5倍とはいかないにしても、既存顧客を維持する方がコストが安くなると言うのは感覚的にも間違っていないように感じる。会社側には顧客に関するデータがあり(いつでもコミュニケーションできる)、顧客はある程度の好感も持っているはずだからだ。また、切り替えるときのコスト(スイッチングコスト)があるのであれば、維持するほうがコストが安くなると感じるのは当然だ。

しかし、「ブランディングの科学」という本では、この法則を否定している。その根拠となるのが、世界中の様々な業界を調査した結果として「離反率はシェアによって業界毎に大体決まっている」というものだ。トップブランドであるほど離反率は低くなり、下位ブランドになればなるほど、離反率は高くなるという。つまり、離反率を下げたいのであればシェアを高めなければ離反率は下がらないと言っているのだ。

離反率を下げるためには、本当にシェアを上げるしか方法はないのだろうか?

仮に、これまで新規顧客100人を獲得するために100万円のコストがかかっていて、既存顧客は100人いたとする。「既存顧客の維持の方がコストが安い(はずだ)」との経営判断により、既存顧客を105人にすることを今年の目標にして施策を実施しろとの指示があった。つまり、新規顧客は95人獲得するだけでよくなるので新規顧客獲得のコストは95万円で済むはずだ。あとは、5万円未満の予算で去年よりプラス5人維持することが出来ればコストを抑えて顧客数を維持することが出来る。

5万円未満。つまり49,999円以内で5人維持しなければこれまでと同じになってしまう。それ以上コストがかかってしまうと以前の状態と同じか、効果がないことになってしまうわけだ。

そこで早速マーケティング担当者は考える。既存顧客の誰をターゲットにすべきなのか?既存顧客と言っても色々いる。非常に満足している顧客もいれば、満足していない顧客もいる。しかし、(離反率を下げるための)ターゲットは、満足していないか、そもそもブランドスイッチを繰り返しているようなロイヤリティが低い顧客たちであると考えるのが普通だ。(もちろん、企業・業界によって離反する理由・傾向は様々なので一概に言えない。ここではそれを前提として話を進める)

そうなると離反率を下げることの困難さが少し理解できるだろう。仮に離反者の多くがブランドスイッチを繰り返す顧客である場合、彼らをつなぎとめることが課題となるからだ。このブランドスイッチを繰り返す人は、企業へのロイヤリティも低く他社の施策にすぐに影響を受ける人たちだ。このような人たちを新規顧客を獲得するコストよりも少ないコストで維持をすることが果たして本当に出来るのだろうか?

確かに企業側にはデータがあるし、コミュニケーションも取ることが出来る。しかし、そもそもロイヤリティが低く企業側の施策を喜ぶような人たちばかりではない。どんなに適切なメッセージを適切なタイミングで送っても簡単にブランドスイッチしてきたような人たちだ。それが自社の既存顧客なった場合はだけは、突然ブランドスイッチしなくなると考えるのは賢い判断とは言えない。もし、それを可能にする秘策があるのだ!というなら話は別だが。

彼らを維持する難易度は新規顧客を獲得するときとそう変わらないはずだ。しかし、マーケティング担当者は新規顧客を獲得するためのコストよりも少ないコストで維持しなければならない。

このように書くとお気付きになる人もいるかもしれないが、新規顧客の獲得施策の内容や質によっても離反率や維持コストは影響される。つまり、新規客獲得の施策において、自社製品サービスを継続的に使ってもらえそうな人を100人獲得することと、上記のようなブランドスイッチを頻繁に行う人を100人集めたときでは離反率を下げる難易度は全く違うということだ。難易度が低ければ維持コストもそのぶん安くなる。

もし、あなたの会社の離反者がブランドスイッチをする人ばかりで、これまで継続しそうな人を獲得するという視点で施策を実施してこなかったというなら、もしかすると新規顧客を獲得するマーケティングの内容や質を変えることが離反率を下げる結果に繋がるかもしれない。離反率を下げるために、離反しそうな人を見つけて対応することだけが施策ではないのだ。

結局のところ何が言いたいのかというと、1つは新規顧客獲得コストの5分の1のコストで顧客を維持すると言う事はまずあり得ないと言うことである。多少は効果はあるかもしれないが、みんなが期待しているような大きな成果が出るとは考えない方がいい。そもそも既存顧客の維持の方が安いという分析を自社を想定して実施したのだろうか?法則があるから自社もそうだろうと思っただけではないのか?さらに言えば、製品サービスの利用を辞めようとしている人を対象とすることを忘れてはいないか?ということだ。製品サービスの利用の開始を検討する人を囲い込むことと辞めようとしている人を辞めさせないことのどっちが難易度が高いと思うだろうか?

また、もう1つは、離反率は様々な要因が絡んでいるということだ。上記では新規顧客の質を変えることが1つの方法であることを記述したが、企業によっては離反率が高いのはそもそも製品に問題がある可能性も十分ある。競合他社よりも製品の品質が劣っていることが根本原因であるにも関わらず、離反率を下げるためにCRMを導入して離反しそうな人をキャッチして適切なタイミングで適切なメッセージを送るなどという施策がどれだけの効果を生み出すのだろうか?

最初に紹介した「ブランディングの科学」が調査を思い出してほしい。この著者の調査によれば、多くの業界でトップブランドの離反率が低い。そして、下位ブランドほど離反率が高くなる。なぜ多くの業界でそのような傾向が見られるのだろうか?一概に特定することはもちろん出来ないが、結局は顧客に広く受け入れられているかどうか(どれだけ強く必要とされている製品サービスかどうか)が最も離反率に影響を与えているということだ。様々な著書でシェアをより高く獲得することが大切であることを説明しているように、シェアをより高く獲得することで離反率にも大きな影響を与えることになるのだ。その本質的なことを避けていないだろうか?

高度な分析をコストをかけて(AIなどを導入して)離反しそうな人を見つけて対策することは本質的だろうか?もちろん、1つの施策としてはあり得るが、そこに大きな期待をするのはおかしい。

『新規顧客1人を獲得するためには、既存顧客1人を維持するために必要な費用の5倍を要する。』という法則は、1990年にハーバードビジネスレビューに寄稿されたライクヘルドとサッサーの論文がもとになっている。しかし、この主張は実際に実験を行ったものではない。あくまで頭の中で行った仮想実験である。(「ブランディングの科学」より要約)さらに、ライクヘルドとサッサーは顧客離反率を下げるためのコストはほぼ必要ないと考えていたという。しかし、上記で記述したように満足している人ならまだしも、離反する人は(業界や企業によるが)基本的にロイヤリティが低い。そんな彼らをコストをほぼかけずに維持することなど現実的には考えにくい。

ライクヘルドとサッサーが顧客離反率を下げるためのコストは不要であることを前提にしたのであれば、5倍もの違いが出ると主張しても不思議ではないが、現実世界ではそんなことはあり得ないのである。

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