時代の変化によって様々なものが変化する。消費者が変化するなら、企業も変化しなければならない。
最近コンビニに行くと特に「変化したな」と思うのがカップ麺のコーナーである。以前であればあまり特徴がないと思っていたコーナーであり、何年も経っても変わらないコーナーでもあった。しかし、最近のカップ麺コーナーは非常に魅力的になってきていると感じる。いつもならカップ麺を買うことがほとんどない自分も買ってみようかなと思うことが増えた。
最近特に気になったのは「地獄の担担麺」というカップ麺である。大きなフォントで「地獄の担担麺」と書いてあり、デザインもいかにも辛そうで目立つ。この商品はとある店舗とのコラボレーション商品である。最近、よく企画される形態の1つだが、これまでの企画ではなかった要素が含まれていると感じている。
この名前を見たときに皆さんはどのようなことをイメージするだろうか。きっと、みんなで一緒に食べて辛い辛いと言って悶絶する姿を想像するのではないだろうか。この商品を使うことで、そのシーンが盛り上がることを期待できる。
以前であれば、このようなカップ麺の買い方はあり得なかった。以前であれば、カップ麺から想起されるのは、1人で寂しく麺をすするシーンだ。最近のドラマでもスーパーでカップ麺を買う男性に対して「寂しいですね〜」と声をかけるシーンがあった。カップ麺をみんなで食べるというイメージは想起しにくい。しかも、買うのは男性が多いというイメージもある。しかし、この商品はそのような買い方はされない。
近年、マーケティングにおいて「顧客体験」と言うキーワードが盛んに言われている。商品を購入することでどのような体験ができるのか?を重視する考え方である。製品スペックに注目するのではなく、スペックの向上によって私たちの生活に何をもたらすのか?を重要視する。
カップ麺で言えばこれまで「安くて簡単で美味しい」という体験を提供してきた。その体験は確かに重要なことであり特に独身男性にとって高い価値を感じさせるものであった。しかし、独身男性に普及するようになることで、カップ麺から想起されるイメージは上記のように決して明るいものではなくなり、さらに健康志向の高まりによって、カップ麺のイメージはさらに悪いものになってしまった。
消費者は、カップ麺を評価するとき「寂しさという尺度」と「健康という尺度」で見るようになってしまったのだ。「安さ、早さ、美味さ」という尺度でカップ麺を評価する人は少なくなってきた。
このネガティブな尺度から評価される限りカップ麺は売れない。メーカーは、新しい尺度でカップ麺を見てもらわなければならないと危機感を募らせているはずだ。少なくとも新しい何かをしなければと感じているはずだ。
その1つの答えになり得るのが「地獄の担担麺」である。地獄の担担麺などの激辛商品は、その場を盛り上げるツールとしても評価される可能性がある。その場が盛り上がるか?という尺度で評価されるのだ。この新しい視点・尺度からカップ麺を見てもらうことで、女性やこれまでカップ麺を買うことのなかった人に買ってもらえる可能性が出てくる。これまでと全く違うシーンで食べてもらえるようになる。昨年2018年に「ペヤング ソースやきそば超超超大盛GIGAMAX」が話題になったが、それも同じように「みんなで食べるカップ麺」「盛り上げるためのカップ麺」という視点を提供している。
もちろん、辛いもの好きの人も食べてもらえることを想定しているだろうが、それではあまりにもボリュームが小さい。ゲーム感覚で食べてもらえるシーンを作りだすことでボリュームが広がるのだ。
正直なところ、この商品のマーケティングは不足していると感じる。これまでにない食べ方を訴求できるのに、メーカーは「辛くて上手い」というあまり重要ではない尺度・ボリュームが広がらない尺度で見てもらおうとしているように感じる。独身男性の中でも辛いもの好きをターゲットにしているように感じる。そのような考え方でマーケティングしても上手くいかないだろう。
個人的には、この手の商品はYoutuberによって紹介するのに非常に向いているし、辛さに悶絶する人の面白動画など、企業側から買い方・食べ方をもっと提案することでさらに売れる商品ではないかと感じる。コンビニのカップ麺コーナーだけでなく、ドンキのパーティーコーナーなどにも置いてもいいのではないだろうか。
どの時代においても買われる商品と言うものは「買った後のことが想像できる」ものである。しかも買うことで「より良い未来」が見えることが重要である。このカップ麺は、時代の流れによって消費者の感覚・尺度が変化していることに適切に適応する良い例になると思う。人との関わりを重要視する時代背景に適合するはずだ。
そして、「より良い未来」が見えるかどうかは、「新しい視点・尺度を提供できるか」にかかっている。今回はカップ麺の新しい食べ方に関することについて書いたが、他の業界でもこのように異なる視点で考えることで変化した消費者に新しい価値を提供できるはずだ。