マーケティングの本には「新しい価値」を生み出すヒントは書かれていない。

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マーケティングにおいて、「視点を変えることで新しい価値が生まれる」というのは広く知られたことでしょう。このブログでも、マルちゃん正麺の事例などを紹介してきました。しかし、いまだに多くの企業のマーケティング担当者は、視点を変えることが難しいと考えているように感じます。確かに、そう簡単に視点を変えることが出来ていれば、日本のマーケティング業界はもっと大きな成功を収めていたのかもしれません。

そこで、今回は「社会的課題」を共有することで新しい価値を見つけ出した事例を紹介したいと思います。なぜ「社会的課題」なのか?ですが、「社会的課題」というのは比較的取り組みやすく、これからの時代においてさらに必要とされてくるものだからです。そして、何より新しい価値を生み出すためのヒントになるからです。

近年、企業は単純に利益を追随するだけでは、消費者からの支持を得られにくくなってきていると言われています。厚生労働省の調査によると10代~30代の約80%が「企業は利潤追求だけではなく、社会的責任も果たすべき」と回答しているそうです。(2013年厚生労働省調査)さらに、コトラーは「マーケティング4.0」において、「顧客との価値の共有」が今後必要になってくると言っています。

しかし、このページで強調したいのはそのようなことではなく、「顧客との価値の共有」によって「視点を変え新しい価値が生まれる」というシーンを理解してもらうことにあります。

本日、ITメディアビジネスオンラインに「希望した客はいつもタダ!奈良のトンカツ「無料食堂」が繁盛する深い訳」という記事が掲載されました。この記事では、奈良のトンカツ屋の店主が貧困に苦しむ人を純粋に救いたい一心で、希望すれば飲食を無料にする施策を実施したことが紹介され、結果としてその「想い」に共感した人たちが有料でトンカツを食べることで、そのお店を応援するという新しい形が生まれていることが書かれています。

このトンカツ屋さんは「無料食堂」を実施することで、「貧困という社会的課題に貢献したい」という『「想い」をお客さんと共有することに成功しています。これは勝手な想像ですが、このトンカツ屋さんの周辺では「貧困」が比較的身近なのかもしれません。そのため、来店するお客さんにも、この「貧困」への問題意識があったのでしょう。だからこそ、無料食堂がお客さんがいつも感じていた「貧困への想い」に共鳴したのだと考えられます。逆に言えば、誰も貧困について考えていないような場所や貧困者しかいないような地域では同じような反応はなかったと言えます。既にお客さんの中に「貧困への問題意識」があったからこそこの施策が成功しているのです。

そして、この「顧客との価値の共有」が、トンカツのおいしさやサービスなど、本来このお店が提供していた価値の他にも「貧困への貢献」という「新しい価値」を提供することにつながっています。もし、無料食堂をしていなかったら、このお店は「味、サービス、内装など」他のお店と同じ尺度で評価されていたはずです。しかし、無料食堂をすることによって他の店では手に入らない価値をこのお店では手に入れることが出来るようになっているのです。

言い換えれば、「味、サービス、内装など」の誰もが考えるような普通の視点から考えたのではなく、「貧困」という視点から考えることで顧客へ新しい価値を提供することに成功しているということです。

多くのマーケティングの教科書では、事例紹介で「これまでにない価値」を顧客に提供したからこの企業は成功した云々と記載されていることがあります。しかし、ではどうすればそのような価値を生み出すことが出来るのかについては、3CやSWOT分析やらのフレームワークを使うべきだと書かれています。しかし、ご存知の通り、フレームワークを使って新しい価値が必ずしも生まれるわけではありません。もちろん、フレームを使えば新しい価値を生み出せることもありますが、実際はそう簡単なことではありません。実際、このトンカツ屋さんの事例で、どんなにフレームを駆使したところで「貧困」というキーワードは出てきそうにもありません。きっと、この店は味で差別化しようとかその程度のことしか導き出せないでしょう。

このトンカツ屋さんの場合は、店主の感覚がお客さんの感覚と非常に近かったことが成功の大きな要因でしょう。だからこそ、「貧困」を「トンカツ屋」と結びつけることが出来たのです。(もしかするとマーケティングのことなんて全く考えていなかったのかもしれません。さらに、既存のマーケティングの視点から自由であったことも影響しているかもしれません。)

しかし、この事例で改めて気づかせてくれるのは、マーケティングで大切なことは、顧客を様々な視点から観察し、熟知しているかということです。そして、マーケティングで一般的に言われているようなフレームや視点だけではなく、これまで全くマーケテイングとは関係のないと思われていた視点にこそ「新しい価値」があるのだということです。まったく、マーケティングは専門外なのにマーケテイングに秀でている人は、マーケティング視点に縛られず、視点を自由に変えて考えることの出来る人なのだと思います。

実際、非常に競争の激しい現代において、あらゆるマーケティング本に書かれている視点や考え方でお客さんを見て観察しても、競合企業が既に実施しているようなことしか見つからないものです。多くの人がマーケティングを勉強しています。結果としてマーケティングに関する情報が溢れる現代においては、勉強しなければ遅れてしまいますが、勉強したからといって競合に差をつけることが出来るわけではないのです。

では、差をつけるにはどうすれば良いのか?それは、さらにもう一歩、誰も見つけていない視点を見つけるということです。そして、そのヒントはマーケティングの本には書かれておらず、哲学や歴史などこれまでマーケティングとは関連づけされてこなかった分野にこそあるということです。

ぜひ、マーケティングに関わる人間なのであれば、マーケティングの本ばかりだけでなく、様々な書籍を読んでみてはいかがでしょうか。きっと、これまでにない視点を身に付けることが出来ると思います。