マーケティング担当者にとって、新規顧客を獲得する施策は最も重要な施策の1つである。多くの企業では、新規顧客を一定数獲得しているからこそ経営がなりなっているからだ。ほとんどの企業において、毎年自社製品サービスの利用や使用を辞める顧客がいる。そのような場合、失われる顧客以上の新規顧客を獲得しなければその年の売上は減少することになる。もちろん、既存顧客からの売上をさらに増加させることで補うことも可能であるが、私の知る限り離脱率が「0」である企業は少なく、かつ既存顧客から売上を増加させることに苦戦している企業が多いと感じる。
そのため、多くの企業は常に新規顧客を獲得し続ける努力を継続している。その一つの手段が多くの企業で実施されている「新規顧客獲得のマーケティングキャンペーン」である。例えば、割引を実施することで新規顧客を獲得しようとするものだ。しかし、これらキャンペーンにおいては「利益÷コスト×100」という計算式(ROI)を用いてキャンペーンがペイするかどうかを多くの企業では測定している。(もちろん、そうじゃない場合もある)
しかし、実際には初回の購入以降も自社の商品サービスを複数回購入してくれる可能性があるため、上記の「利益÷コスト×100」では正確に判断することは出来ない。では、どうすればこのキャンペーンがコストに対して妥当なのかを正確に判断することが出来るのだろうか?そのためには、下記のような計算式が参考になる。
「キャンペーンの実施価値=獲得確率×(初回購入利益額+顧客生涯利益の総額(平均))ー1人当たりの獲得コスト」
「初回購入利益額」とは、通常キャンペーンにおいては、特別割引価格を実施するため、初回のみ利益額は少なくなり粗利益に影響するために別途項目を設けている。また、「顧客生涯利益の総額 (平均) 」というのは、ここでは2回目以降に渡って顧客が自社に提供する利益額の平均総額である。この2つを足し合わせることでより正確に計算しようとしている(特に割引をしないのであれば不要である)。キャンペーンコストは広告費や人件費などすべてを含めたものを想定している。こうすることで「キャンペーンの実施価値」がマイナスでない限りはキャンペーンを実施する価値はあるということになるのだ。
例えば、 顧客生涯利益の総額 (平均) が「30,000円」であるホテルが、初回購入利益額が「100円」になる価格を設定し、1万人の見込顧客を対象にキャンペーンを実施することを想定する。また、キャンペーンコストは「2,000万円」であったとすると、見込顧客1人当たりのコストは「2,000円」である。そして、獲得確率を1%(=0.01)とすると下記のようになる。
キャンペーンの実施価値=0.01×(100+30,000)-2,000=-1,699
結果がマイナスとなっているために、このキャンペーンは実施する価値がないことになる。
しかし、実際には獲得確率が不確実であることの方が多い。そのため、獲得確率がいくつであればこのキャンペーンがペイするのかを計算することが必要である。この場合、上記の数式の「キャンペーンの実施価値」が「ゼロ」とすれば下記の計算式で計算することが出来る。
損益分岐獲得確率(%)=1人当たりの獲得コスト÷(初回購入利益額+ 顧客生涯利益の総額 (平均))
つまり
0.066=2,000÷(100+30,000)
となり、獲得確率が6.6%以上あればこのキャンペーンは実施する価値があるということになる。
最近は、CRMによってこれら数値(「1人当たりの獲得コスト」「獲得確率」「顧客生涯利益の総額 (平均) 」など)を得ることが可能になってきている。これら数値を活用することで、今後実施するキャンペーンをこれまでよりも正確に評価ことが出来る。
しかし、問題は上述のような割引によって獲得した顧客の生涯価値は相対的に低くなるということである。つまり、割引額に反応したのであって、継続的に自社製品サービスを購入しない人が多くなるということだ。また、キャンペーンを実施するターゲットの性質によってもこの数値は変動することが考えられる。そのため、ターゲット毎やセグメント毎に生涯価値がどれだけ違うのか?どれだけの割引率で実施するとどれだけの生涯価値が減るのか?などの分析を実施しておくとより正確に計算することが出来るだろう。せっかくのCRMである。このような計算を常にできるようにしておくとより活用することが出来るはずだ。
参考文献:マーケティングメトリクス(日本経済新聞出版社)