マーケティング業務でデータ活用の仕事をしているといつも感じることは、上手くデータを活用出来ないということだ。私自身データで出来るかもしれない可能性に魅力を感じて、データを扱うようになったが、実際のところは、そうそう上手くいっているところは少ないようだ。
確かに、多少良くなったという経験はあるにしても、いずれもボリュームが小さくインパクトがなく、夢を描いたあの頃と現実を比較して愕然とするのである。そのため、なんとかデータを上手く活用できるようになりたいと思い、統計学を勉強したりして、一歩進んだスキルを習得しようと努めている。しかし、現実には多変量解析の手法を使える機会は以外と少ないものだ。多変量解析は、一定の形式で一定のデータがそろわなければそもそも分析が出来ない。でも、企業にはそんな都合よく多変量解析が出来るデータがそろっていることなんてないわけで、多変量解析勉強してもあまり使う機会がないことに気づき始めるのである。
そんなこんなで、データ活用に行き詰る人は多いのではないだろうか。しかし、世の中にはデータ活用を上手に実践している企業も間違いなくある。日経クロストレンドの記事によれば、データを使って歯磨きを楽しくさせる仕組みづくりが米国の企業では実践されているようだ。私はこの記事に非常に強い興味を抱いた。
マーケティングで有名なP&Gが発売している電動歯ブラシは、正しく歯磨きが出来ているかをリアルタイムに評価・指導してくれる。利用者は自分の歯磨きを専用のスマホアプリで撮影することで理想的な歯磨きをしているかどうかを判定してくれるのだ。もちろん、歯ブラシにはセンサーが内蔵されており、磨く強さやスピードなども詳細にデータを取得することで正しい歯磨きになるようにアドバイスしてくれるのだ。
さらに、アメリカのビーム(beam)というメーカーが発売する「ビームブラシ」は、毎日の歯磨きデータを保険会社と共有し、ちゃんと歯磨きしてきた人には治療費を優遇するような仕組みを作った。また、フランスのコリブリー社のセンサー付き歯ブラシはスマホアプリと連動させ「歯磨き連動ゲーム」を提供しているという。例えば、宝探しゲームで宝物を見つけるためには、歯磨きをしっかりしなければならないという感じだ。子供に歯磨きの習慣を身につけさせるために一役買っているそうだ。
このようなニュースを読んで私が思ったことは、データ活用の上手な企業は、データよりも前に明確な目的があるのだろうということだ。しかも、単なる目的ではなく、自社製品をどう利用してもらうのか?という顧客の利用シーンが明確に定義されていることだ。そして、そのシーンを実現するための手段の1つとしてデータを使っているだけということだ。その大きな目的がデータ分析する前に明確に存在するのだ。
なぜそう思うのかと言えば、自社データを何かに使えないか?からスタートしても「歯磨きゲーム」だとか「正しい歯磨き診断」などというアイデアが生まれてくるとは思えないからだ。データは単なる石ころみたいなものだと思う。道端に転がっていれば何の価値もないが、芸術家が少し加工して博物館に置けば価値は莫大なものになる。そして、その石ころの価値を最大化させるのは人間のイマジネーションであり、石ころではない。同じように価値のないデータを価値あるものに生まれ変わらせるのは、人間の意志であり、想像力でしかないと思うからだ。
ここに、データからスタートすることの無意味さがあると思うのである。データと一生懸命向き合うのではなく、人間と向き合うことでしか価値は生まれないということを強く感じるのだ。データサイエンティストほどデータではなく人間を見るべきなのだと思う。そして、この教訓はデータに関わる人に限定されないだろうということも容易に想像がつくのである。