マーケティング担当者の仕事は、売上・利益に貢献すること。それは間違いないことだと思う。そのために新規顧客の獲得や既存顧客の維持がざっくりと言えばマーケティング担当者の仕事だ。そして、その方法は千差万別である。広告・PR・MA・CRMなど様々な手段を適切に組み合わせて新規顧客の獲得と既存顧客の維持を行おうとする。
しかし、多くのマーケターが「既にターゲティングされた顧客に対してのみ」に施策を実施している。個人的に言えば、その仕事はマーケティング担当者の仕事の一部でしかないと考えている。というのも、コトラーが言っているようにマーケティングの役割は市場の創造であるからだ。
マーケティング担当者からすれば、入社する前に決められたターゲットが存在し、これまでのやり方でそのターゲットから売上・利益を上げてきたのだからそれで良いと考えるかもしれない。そして、ターゲットの変化を見極め適切に対応することが仕事だと考えるかもしれない。ターゲットを新たに発見しようとはしない。しかし、与えられたターゲットから売上・利益をさらに増やすことはそんな簡単なことではない。時代背景もあって今後さらに厳しくなることは間違いない。そして何より顧客はさらに変化し続ける。そのようにターゲットに適応し続けるだけで売上・利益は伸びていくだろうか?もちろん、それだけで伸びていく商品サービスもあるだろうが、顧客が変化することで売上・利益が落ちる企業の方が多いのではないか?
マーケティング担当者は、もしそのような状態にあるのであれば「市場の創造」という本来の役割を思い出すべきである。既存のターゲットを対象としている限り今後大きな売上・利益の増加が見込めないのであれば、早急に別のターゲットを見つけるべきだ。自社製品サービスをどの市場に適応すべきかなど新たな売上の源泉を見つけることはマーケティング担当者の大切な仕事のはずだ。
そして、新しい売上の源泉を見つけるためにマーケティング担当者がやらなければならないのは「視点を変える」ことである。よく言われることであるが「視点を変えることで価値が生まれる」のだ。自社の製品サービスを違う視点から見ることで見逃していた価値が見えてくるのだ。
例えば、このブログでも何度も紹介している「昔ながらの中華そば」である。半生麺という新しいカテゴリを開拓し発売当初は好調だったものの、その後競合他社が参入したことや、家で食べるラーメンにこだわる人が増えなかったこともあって低迷していた。しかし、視点を変え、鍋のシメに食べるラーメン=「鍋用ラーメン」として販売することで売上を伸ばした製品である。
それまで「家でラーメンを食べる人」をターゲットとしてマーケティング担当者は彼らだけを見ていたわけだ。しかし、「家でラーメンを食べる人」をターゲットとし続けていたら、今の売上の増加は絶対にない。視点を変え、主婦の視点から見ることで鍋用ラーメンが生まれたのだ。主婦としては家族に野菜をたくさん食べてもらいたいと考える一方で、鍋は子供には不人気であった。しかし、最後にラーメンがあることで野菜も食べてくれるはずという主婦の問題解決に役立ったのだ。しかも、鍋用ラーメンはスープを入れる必要がないこともあり利益率は高い。
また、「キリンフリー」の事例も視点を変える大切さを教えてくれる。「キリンフリー」は完全ノンアルコールビールであり、初めて「アルコール分0.00%」と表記した製品である。この製品がターゲットとしたのは当然ビールを飲みたいのに飲めない人である。つまり、他のお酒の代用品として飲んでもらうことである。しかし、他のお酒の代用品という位置づけでは売上は期待できない。あまりにニッチ過ぎるのである。そのため、キリンフリーを飲んでもらうシーンを新たに創り出さなければ販売継続がそもそも危うかったのだ。つまり、売上拡大のために市場を創造しなければならなかったのだ。
そこで開発者が考えたターゲットは「忙しくて飲みたいのに飲めない主婦」や「妊娠中のために飲みたいのに飲めない妊婦」さらに「休肝日として飲む人」などなどである。「女性の視点」や「健康の視点」からキリンフリーを見ることでこの商品の新しい価値を発見したのだ。
もし、あなたがノンアルコールビールのマーケティング担当者だったらこのような視点を見つけられていただろうか?キリンフリーの場合は、市場を創造しなければそもそも販売継続が難しい状況下だったから市場創造の検討をしたが、もしそうでなかったら検討すらしなかったのではないだろうか?
しかし、これこそマーケティング担当者としての仕事であり醍醐味である。決められたことだからといって、今現在対象にしているターゲットだけに集中してしまうことは、もしかすると様々なチャンスを逃している可能性もあるのだ。
もし、既存のターゲットだけでは将来的な売上拡大があまり期待できないというのであれば、「視点を変える」ということを試してみてはいかがだろうか。
参考資料:「マーケティングリフレーミング(有斐閣)」