この書籍では、神話をもとに日本人の心の特性を明らかにしようとする書籍である。著者は、心理学者であり日本古代の神話にこそ日本人の特性があるはずと考え、「古事記」や「日本書紀」を読み解こうとする。
個人的にこの本で特に興味深かったのは最後の節である。簡潔にまとめたものをご紹介したい。
現代の日本では、欧米の考え方である「中心統合的な考え方=何か(誰か)を中心に置き、それによって方向性が決められ、それに従う考え方」が浸透していると主張する。例えば、企業では、社長を中心として部下がそれを達成するために動くのは実に中心統合的な「形」であると言っている。しかし、古代から続く日本人の考え方は「中空均衡構造的」であると著者は言う。「中空均衡構造的」とは、中心的存在を明確に作るのではなく、相反するもの同士をバランスよく保つ考え方である。例えば、日本においてキリスト教を受け入れる時について言えば、仏教とは全く異なる考え方を受け入れる際に、それをキリスト教を全否定もしくは全肯定するのではなく、仏教とキリスト教を日本の中にバランスよく共存させたのが実に日本的であるというのである。
日本においては、多くの側面においてこのような考え方が多いという。企業においても一見中心統合的な「形」をしているが、何かを決めるにしても、誰かの意見がすべて通るのではなく、色々な意見をバランスよく含めた折衷案などが採択されることや、日本においてのリーダーとは強烈に部下を引っ張っていくというよりも様々な部下たちを主張を受け止めながらも上手くバランスを取れる人である場合が多いのもこの「中空均衡構造」的な考え方に根差しているからであると主張している。欧米では、誰かが勝ち誰かが負ける。しかし、日本においてはそんなことはないのが日本人の考え方の特徴として挙げているのだ。
そして、その「中空均衡構造」のメリットとともにデメリットも提示しているのが面白い。この「中空均衡構造」は欧米を追いつけ追い越せという統一した目標があった時代においては上手く機能したが、経済大国となり自分自身で何かを決めなければならない状況においては、全くもって優柔不断にさせてしまう根本原因であるという。
そのような「中空均衡構造」の特徴を指摘した上で、著者は日本人は大きな課題を背負っていると主張する。つまりは、日本人特有の「中空均衡構造」には、メリットだけでなくデメリットもある。そのうえで「中空均衡構造」の考え方に固執するのではなく、欧米的な「中心統合的」な考え方をどのように吸収していくのかという課題である。この課題を乗り越えることで、日本人は更なる成長を獲得出来るはずであると著者は主張している。
私は、この書籍は日本人が考えるべき事や行動すべきことを示していると感じるのだ。それがこの本の素晴らしいところである。そして、この主張はマーケティング担当者だけに留まらず多くの経営者にとっても重要なことであるはずだ。というのも、日本企業において今課題となっていることは遠からず著者が主張した課題に近いものであるはずだからだ。